REVIEW

変われないことなんて、何も無い。

映画『サウスポー SOUTHPAW』

Blu-ray & DVD 2016.10.19 Release!

2016年、すべての大人たちに捧ぐ―伝説のチャンピオンとその家族の再生の物語。心掴まれる、この1本。

  • Artwork © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
  • 配給:ポニーキャニオン

INTRODUCTION

ジェイク・ギレンホールのボクサー姿に世界が驚愕!!アカデミー賞をにぎわすキャストと監督、そしてエミネムによる傑作の誕生!!

 『ロッキー』や『ミリオンダラー・ベイビー』、『シンデレラマン』や『ザ・ファイター』など、ボクシング映画には数多くの名作が存在する。その理由はスポーツ映画としてのおもしろさだけでなく、彼らをリングに駆り立てる、家族や恋人や友人たちとの魂のドラマが、多くの人の琴線に触れるから。『トレーニング デイ』や『イコライザー』を手がけ、自身も熱心なボクサーであるアントワーン・フークア監督と、高い評価を受ける演技派のジェイク・ギレンホールが初タッグを組んだ本作。どん底まで落ちたボクサーの復活劇は、亡き妻との強い絆を描いたラブストーリーであり、娘と父親が成長していく親子の物語でもある、心を揺さぶる珠玉の愛のドラマだ。


 無敵のチャンピオン、ビリーを演じたのは、『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞にノミネートし、『ナイトクローラー』の怪演も記憶に新しいジェイク・ギレンホール。6か月にわたってトレーニングを行いボクサーのフィジカルを体得。ノースタントで演じた手に汗握るファイトシーンは圧巻だ。不完全な主人公を支え、大きな愛で包み込む美しい妻モーリーンを演じたのは、『スポットライト 世紀のスクープ』で本年度アカデミー賞にノミネートしたレイチェル・マクアダムス。ビリーの指導者となり、彼の人生をも救済する役目を担うトレーナーのティック役には、『ラストキング・オブ・スコットランド』でオスカー俳優となったフォレスト・ウィテカー。


 主題歌は実はその半生が本作のモチーフとなったエミネムによる書き下ろし曲「Phenomenal」。エミネムはサウンドトラックのエグゼクティブ・プロデューサーを務めるなど、熱心に作品に参加し音楽の面からサポートしている。また、カーティス・‘50セント’・ジャクソンがビリーの10年来のマネージャーを熱演し、リタ・オラも少ない出演時間ながら強烈な印象を残す役柄で登場するなど、音楽好きも見逃せない作品になっている。

STORY

「倒すのは、昨日の自分だった」彼が左の拳を握る瞬間―その運命が変わる。

全てをなくしたボクシングの元世界チャンピオン。彼は亡き妻との最愛のひとり娘のために自分を変え、再びリングに上る。これは、ある父親が、ひたむきに自分と向き合うことで成長し、家族との絆を取り戻そうとする感動の人間ドラマ。

 誰もが認める無敗の世界ライトヘビー級王者、ビリー・‘ザ・グレート’・ホープは、ボクシングの聖地マディソン・スクエア・ガーデンで行われた試合で強烈な右で逆転KOを決め、脚光を浴びていた。彼の武器は怒りをエネルギーにする過激なスタイルだが、妻と娘の心配は絶えない。そして、その怒りが引き金となり、最愛の妻の死を招いてしまう。悲しみに暮れ自暴自棄な生活を送るビリーは、ボクシングにも力が入らず世界チャンピオンの称号を失い、信頼していた仲間、そして娘まで失ってしまう。もはや何もない。明日の生活にさえ困るどん底の境遇の中、ビリーは第一線を退き古いジムを営むティックに救いの手を求める。彼は、無敗を誇った自分を唯一苦しめたボクサーを育てたトレーナーだった。


 「お前にはしばらくグローブを握らせない」「お前の短気は命取りだ」「ボクシングはチェスのようなものだ」ボロボロの元チャンプ、ビリーへのティックの罵詈雑言。しかしその言葉には再生のための鍵が隠されていた。やがてビリーは、過去の自分とひたむきに向き合うことで、闇の中に光を見出していく。「娘を取り戻したい」ビリーはプライドも名声もかなぐり捨て、父として、ボクサーとして最愛の娘のために自分を変え、再びリングに上ることを決意する。そして、ティックは復活のための秘策をビリーに授けるのだった…。

CAST

ジェイク・ギレンホール [ビリー・‘ザ・グレート’・ホープ] JAKE GYLLENHAAL [ Billy ‘The Great' Hope ]

1980年12月19日、カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。父親は映画監督のスティーヴン・ギレンホール、母親はプロデューサー兼脚本家のナオミ・フォナー、姉は女優のマギー・ギレンホールという芸能一家に生まれる。11歳のときに『シティ・スリッカーズ』(92)で俳優デビュー。カルト的なヒットを生んだリチャード・ケリー監督の青春映画『ドニー・ダーコ』(02)で主人公を演じ、インディペンデント・スピリット賞にノミネートされた。名門コロンビア大学に進学したが、俳優業に専念するため2年で中退。その後はアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた『ブロークバック・マウンテン』(06)、アン・ハサウェイと共演しゴールデン・グローブ賞にノミネートされた『ラブ&ドラッグ』(11)、英国アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞、インディペンデント・スピリット賞にノミネートされた『ナイトクローラー』(15)など、大作映画、インディペンデント映画の両方で活躍。また、2015年1月にはニック・ペインの「Constellations」でブロードウェイデビューを果たした。その他の映画出演作は『遠い空の向こうに』(00)、『ムーンライト・マイル』(03)、『グッド・ガール』(04)、『ジャーヘッド』(06)、『ゾディアック』(07)、『マイ・ブラザー』(10)、『エンド・オブ・ウォッチ』(13)、『プリズナーズ』(14)、『複製された男』(14)、『エベレスト3D』(15)など。ジャン=マルク・ヴァレ監督の「Demolition」や、アントワーン・フークア監督と再タッグを組む「The Man Who Made It Snow」、トム・フォード監督の「Nocturnal Animals」などが公開待機中。

レイチェル・マクアダムス [モーリーン・ホープ]RACHEL McADAMS  [ Maureen Hope ]

1978年11月17日、カナダ・オンタリオ州生まれ。4歳からフィギュアスケートを習い始め、12歳から演技の道へ。トロントのヨーク大学で演劇の美術学士号を取得した。1998年に映画デビューし、その後カナダのTVや映画に出演。リンジー・ローハンと共演した『ミーン・ガールズ』(05)で注目を集め、ライアン・ゴズリングと共演した『きみに読む物語』(05)の大ヒットでブレイク。その後はウェス・クレイヴン監督の『パニック・フライト』(05/未)、サラ・ジェシカ・パーカーと共演した『幸せのポートレート』(06)、ガイ・リッチー監督の『きみがぼくを見つけた日』(09)、ダイアン・キートン、ハリソン・フォードと共演した『恋とニュースのつくり方』(11)、ウディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』(12)、リチャード・カーティス監督の『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(14)など話題作に多数出演。トム・マッカーシー監督の『スポットライト世紀のスクープ』(16)ではアカデミー賞助演女優賞に初ノミネートを果たした。デヴィッド・フランケル監督の「Collateral Beauty」などが公開待機中。

フォレスト・ウィテカー [ティック・ウィルズ]FOREST WHITAKER  [ Tick Wills ]

1961年7月15日、テキサス州ロングビュー生まれ。フットボールの奨学金を得てカリフォルニア州立工科大学へ進学するも、クラシック音楽と演劇を学ぶために南カリフォルニア大学に編入。TV出演を経て『初体験/リッジモント・ハイ』(82)で映画デビューを果たす。その後『プラトーン』(87)、『グッドモーニング、ベトナム』(88)、『スモーク』(95)などで好演し、クリント・イーストウッド監督の『バード』(89)では実在のジャズ・プレーヤー、チャーリー・パーカーを演じカンヌ国際映画祭の男優賞を受賞した。また『ラストキング・オブ・スコットランド』(07)ではウガンダの元大統領アミン役を演じ批評家から大絶賛され、アカデミー賞主演男優賞、英国アカデミー賞、映画俳優組合賞、ゴールデン・グローブ賞など多くの映画賞を総なめにした。『ハード・ジャスティス』(93/未)、『ため息つかせて』(96)、『微笑みをもう一度』(99)、『ホワイト・プリンセス』(05)では監督・製作総指揮を務めるなど多才な俳優として知られている。『スター・ウォーズ』シリーズのスピンオフ作品、「RogueOne:AStarWars Story」、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の「Story of Your Life」などが公開待機中。デミー賞助演女優賞に初ノミネートを果たした。デヴィッド・フランケル監督の「Collateral Beauty」などが公開待機中。

ウーナ・ローレンス  [レイラ・ホープ]OONA LAURENCE  [ Leila Hope ]

2002年8月2日、ニューヨーク州生まれ。役者である父親が出演した「DaysDance」(09)でデビューし、数本の映画出演経験を持つと同時に舞台でも活躍しており、ブロードウェイで上演された「Matildathe Musical」ではトニー賞を受賞し、グラミー賞にもノミネートされた。ディズニー映画『ピートとドラゴン』のリメイク版や『ハングオーバー!』シリーズのスタッフとミラ・クニスによる「Bad Moms」などが公開待機中。

カーティス・‘50セント’・ジャクソン [ジョーダン・メインズ]CURTIS '50 CENT' JACKSON  [ Jordan Mains ]

1975年7月6日、ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。ミュージックチャートを席巻するラッパーとしてキャリアをスタートさせ、その後は映画製作、アパレル、香水、出版、プロボクシングプロモーターなど幅広いジャンルで活躍する実業家としても知られている。2005年には彼の伝記的映画『ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン』で長編映画デビューを果たし、『ボーダー』(10)、『GUN[ガン]』(10/未)、『大脱出』(14)などに出演している。

ナオミ・ハリス [アンジェラ・リヴェラ]NAOMIE HARRIS  [ Angela Rivera ]

1976年9月6日、イギリス・ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学を卒業後、名門ブリストル・オールド・ヴィック演劇学校で演技を学んだ。ダニー・ボイル監督の『28日後…』(03)で注目を集め、『ダイヤモンド・イン・パラダイス』(06)でハリウッドに進出。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのティア・ダルマ役や、『007』シリーズのマネーペニー役で人気を博す。アンディ・サーキス監督の「Jungle Book:Origins」などが公開待機中。

STAFF

 [監督/製作]アントワーン・フークア

1966年1月19日生まれ。同世代で最も高い評価を受けるフィルムメイカーの1人であり、アクションと人物描写を軸とするストーリーテリングを難なくブレンドしてみせる。批評家より高い評価を受けた監督作『トレーニング デイ』では、デンゼル・ワシントンがアカデミー賞主演男優賞を受賞、イーサン・ホークが助演男優賞にノミネートされた。その他の監督作は、ジェラルド・バトラー主演、モーガン・フリーマン出演『エンド・オブ・ホワイトハウス』、リチャード・ギア主演『クロッシング』、世界的ヒットを記録したクライヴ・オーウェン出演作『キング・アーサー』、マーティン・スコセッシが製作総指揮を務めて好評を博したブルース音楽のドキュメンタリー『ライトニング・イン・ア・ボトル~ラジオシティ・ミュージックホール 奇蹟の夜~』、自身の長編監督デビュー作であるチョウ・ユンファ主演『リプレイスメント・キラー』など。最近では、デンゼル・ワシントンと再タッグを組み、大ヒット作『イコライザー』の監督を務めた。待機作に、クリス・プラット、デンゼル・ワシントン、イーサン・ホークらが出演する黒澤明監督の『荒野の七人』のリメイクである、「The Magnificent Seven(原題)」など。

FILMOGRAPHY

イコライザー['14]
エンド・オブ・ホワイトハウス['13]
クロッシング['10]
ザ・シューター 極大射程['07]
キング・アーサー['04]
ライトニング・イン・ア・ボトル ラジオシティ・
 ミュージックホール 奇蹟の夜['05]
トレーニング デイ['01]
 アカデミー賞主演男優賞受賞(デンゼル・ワシントン)
 アカデミー賞助演男優賞ノミネート(イーサン・ホーク)

ワイルド・チェイス[※日本未公開]
リプレイスメント・キラー['98]

 [脚本/製作総指揮]カート・サッター

1960年生まれ。大学卒業後、NYで俳優、その後演技と演出も行うようになり、90年代半ばにはシアター・ロウのザ・ゲイトリー=プール・アクティング・スタジオの教員となった。2001年、FXのドラマシリーズ「ザ・シールド~ルール無用の警察バッジ~」でスタッフライターを務め、2008年人気シリーズ「サン・オブ・アナーキー」を製作、同作は7年間放映され、放映ネットワーク史上最も成功したドラマシリーズとなった。その他「TheBastard Executioner(原題)」を手掛けた。

 [音楽]ジェームズ・ホーナー

1953年生まれ。多彩な音楽スタイルで知られ、『ビューティフル・マインド』、『ディープ・インパクト』、『ブレイブハート』、『アポロ13』など実に130本以上に及ぶヒット作を手掛け、スピルバーグ、コッポラ、キャメロンらとコラボレーションしている。『タイタニック』ではアカデミー賞2部門とゴールデン・グローブ賞2部門を獲得(それぞれ作曲賞と、歌曲賞・主題歌賞)したほか、グラミー賞でも最優秀楽曲賞を獲得。その他にも8度のアカデミー賞、8度のゴールデン・グローブ賞、5度のグラミー賞受賞歴を誇る。2015年6月22日に飛行機事故によって死去。本作が遺作となった。

 [トレーナー]テリー・クレイボン

元ライト級ボクサー。全米最大のアマチュアボクシング大会であるゴールデングローブ(※)で3度の優勝経験を持つ。引退後もコーチ、トレーナー、プロモーター、そして映画の格闘シーンの振付師として30年以上活躍し。数々のトップレスターたちに頼られる存在。『ザ・ハリケーン』『イコライザー』ではデンゼル・ワシントン、『ボーン・アルティメイタム』『インビクタス負けざる者たち』ではマット・デイモンのトレーニングを担当したほか、ケヴィン・スペイシー、ニコラス・ケイジ、ベン・アフレックといったアカデミー賞俳優たちや、スーパーモデル、セレブリティをトレーニングしており、その数は現在も増えている。
※アメリカの伝統あるアマチュアボクシング大会

 [主題歌]エミネム

1972年生まれ。本名はマーシャル・ブルース・マザーズ3世。ヒップホップMC、プロデューサー、俳優。幼い頃から極貧の環境に育ち、自殺未遂の経験も持つ。西海岸ヒップホップ界の重鎮だったドクター・ドレーに才能を見出され、99年にリリースした「スリム・シェイディ」で全米ポップス・チャート初登場2位を記録し衝撃のメジャー・デビューを果たした。 '00年のアルバム「ザ・マーシャル・マザーズ」も1000万超のヒットを記録。'02年は3枚目のアルバム「ザ・エミネム・ショウ」をリリースすると同時に半自伝的映画『8Mile』に主演し、全米公開週興行成績1位を記録。主題歌「ルーズ・ユアセルフ」で'03年度アカデミー歌曲賞を受賞。'13年、アルバム「ザ・マーシャル・マザーズ』からのシングル全4曲がトップ20内となる快挙を達成。そのうち、リアーナを迎えた「ザ・モンスター」が、'14年度のグラミー最優秀ラップ・コラボレーションを受賞。2000年代を通して世界中でもっとも売れているアーティストである。現在まで6度のグラミー賞受賞を誇るとともに、音楽プロデューサーとして50セント、オービー・トライスなどを見出している。本作に主題歌の「Phenomenal」と「Kings Never Die」の2曲を提供している。
http://www.universal-music.co.jp/eminem/

PRODUCTION NOTE

エミネムという存在

脚本家カート・サッターに、1979年の名作『チャンプ』のリメイクを製作する話を持ちかけたのは、もはや伝説のヒップホップ・アーティストといっていいエミネムだった。全てはそこからはじまった。結果的にエミネムはアルバム制作に専念するために製作には参加しなかったものの、「Phenomenal」を主題歌として書きおろし、彼はサウンドトラックアルバムのエグゼクティブ・プロデューサーも務めた。「エミネムはこの作品の世界を生来的に理解できるんだろうね。その浮き沈みや、ジェットコースターのような感情の変遷を」エミネムが作品に関わることを求めた理由について、監督のアントワーン・フークアはそう語る。実のところ、完成した映画をフークアが最初に観せたのもエミネムだった。「彼がどんなふうに感じるのかを見たかった。自らの暗闇をくぐり抜けてきた彼が部屋を出るときに、何かを感じてくれるのであれば、僕は自分の仕事を果たせたということだ」 そう、この映画の背景には、エミネムの人生が投影されているのである。

テーマは父性

ボクシング映画のリメイクという話から始まったこの企画だが、脚本のサッターは、これをただ古い映画の焼き直しの作品にする気はなかった。「僕はボクシングをアナロジー(比喩)としてマーシャル(エミネム)自身のストーリーを語るというアイデアをもっていた」主人公のビリー・ホープが辿る波乱の人生は、エミネム自身が経験した、親友のプルーフ(エミネムも参加するヒップホップユニットD12のメンバーで2006年にクラブでのケンカを発端に射殺された)を亡くした際の苦難からインスピレーションを受けている。またエミネムと彼の娘ヘイリー・ジェイドとの強い結びつきが、作品のもう1つの重要なテーマを決める鍵となった―“父性"というテーマである。

監督のフークアと主演のジェイク・ギレンホールはサッターと共に、この映画をボクシングというスポーツへのリアリスティックな賛歌にすると同時に、誰もが共感できる家族と個人の苦難と再生の物語として作り上げると決意していた。ギレンホールはこう語る。「僕が最初から惹きつけられたのは、主人公のビリーが自らの激情と怒りを糧としてきた人物であるというアイデアだった。それを基にキャリアを築き、すばらしい成功を収め、多くの金銭を手にした。だがその怒りは実際には間接的に自らを滅ぼす。これは自らの怒りと格闘する男のストーリーであり、また父であることは何かを問うストーリーなんだ」

サッターは言う「これは1人の男のボクシングストーリーではないと悟ったんだ。誰の生活の中にもある物語であり、自分だけではなく家族の側からのストーリーでもあるんだ」

主人公のキャラクターについて

アカデミー賞ノミネート俳優ジェイク・ギレンホールを本作の主演に向かわせたのは、何よりほとばしる才能で注目を集める監督アントワーン・フークアの存在だった。一方、自身もトレーニングを日課とする熱心なボクサーであるフークアはこの作品を“ありきたりのボクシング映画"にするつもりは毛頭なかった。そのために、ビリー・‘ザ・グレート’・ホープの役を、考え得る限り最も生々しく苛烈に演じる覚悟のある俳優を探し、ノースタントで特殊効果や編集に頼らず、ストレートなトレーニングのみを用いて、本作はその主演俳優を中心に、カメラワークに至るまで可能な限り忠実にボクシングの世界を再現することを目指した。ビリー・ホープを演じるべき俳優は、ジェイク・ギレンホールだった。

際立ってリアルなボクシング映画を作るために、フークアは伝説的トレーナーおよび格闘振付師であるテリー・クレイボンに参加を要請した。エンタテインメント界屈指の大物たちと仕事をした経験を持つクレイボンは、フークアについてこう語る「アントワーンは普通の監督ではない。ボクシングを知っているからね。彼はリングに上がって、試合やスパーリングをやってきた。彼はボクシングに関して鋭い目を持っているよ」

ジェイク・ギレンホールの徹底的な役作り

脚本を出発点として、ギレンホールとフークアは本物らしく見えるビリー・ホープを作り上げるべく、二人三脚で役作りに取り組んだ。それは長期間に渡る忍耐と肉体的苦痛を伴う作業だった。トレーナーのクレイボンは、あらゆる場所で彼らに同行した。6カ月間に渡り1日2回、ほぼ毎日トレーニングを行い、ボクサーのテクニック、フィジカル、メンタルといった複雑な細部を組み立てていった。フークアはキャラクターが有機的に形成されていく過程に立ち会うため、だいたいその日の最初のトレーニング・セッションに参加した。「毎日監督が側にいて、こちらを鼓舞してくれるのはすばらしかったよ。僕らは2人ともそうした意欲と犠牲に駆り立てられていた。そのエネルギーが映画にも表れているはずだ」

ビリーはライトヘビー級のボクサーという設定だったため、ギレンホールは175ポンド(約79キロ)まで体重を落とす必要があった。普段より15ポンド(約7キロ)ほど少ない体重である。「ジェイクがボクシングを習熟するスピードは、僕の予想を遥かに上回っていた。大抵の連中はいかにもタフな感じでやってくるんだけど、彼は虚心に臨んだんだ」とクレイボン。

ギレンホールが役柄を体現すべく変貌を遂げる道のりは、肉体改造だけではなかった。彼とフークアにとって、脚本と役柄の真価を引き出すために、ボクサーのマインドに入り込み、その心の仕組みを理解することが重要だった。過酷なトレーニングの日課と併せて、ビリー・ホープをスクリーンで生き生きと立ち上がらせるためには、ボクサーたちが生きる世界に没入することが鍵だった。ギレンホールは持てる時間のすべてをジムでプロボクサーたちに囲まれて過ごし、リングサイドで次々に試合を観戦することに費やした。そして、世界王者のフロイド・メイウェザーのトレーニング施設も訪れた。「ボクシング以外のことにはほとんど時間を使わなかったし、それ以外で人と触れ合うこともほとんどなかった」

それによって、ギレンホールは実際のボクサーたちが、精神的および肉体的に耐えている事に対して、並々ならぬ敬意を抱くようになった。「リングに足を踏み入れるときには、正真正銘、生きるか死ぬかの問題が出てくる。それは軍隊に入ることを例外にすれば、他のどんなスポーツにも、社会のどんな出来事にも見られない。それはある意味で美しい人生のメタファーがある。君は自らのリングに上がり、また同じようにそこから降りる。そしてその旅路は君自身のものだ」と彼は語る。

その他キャストについて

一方でクレイボンは他のキャストたちともトレーニングを行った。フォレスト・ウィテカー、レイチェル・マクアダムス、ヴィクター・オルティス、ミゲル・ゴメスといった顔触れだ。オルティスとゴメスはそれぞれプロおよびアマチュアレベルで活躍する本物のボクサーだが、その一方でウィテカーとマクアダムスは、クレイボンの専門的助言を通じてボクシングの世界を理解することが重要だと感じていた。

思慮深いトレーナー、ティック・ウィルズは一方でタフなトレーナーで、他の誰もがビリーを見限ったときに彼を指導し、最終的に救済する。しかし、彼もまた秘かに自らの内に悪魔を抱えている。「武道に精通しているから、フォレストのトレーニングを行うのは、他の皆とはずいぶん異なる作業だった。おかげで習得が速かったよ」そうクレイボンは語る。「メンタルの部分については、彼は試合を見て研究した。自分でしっかりと下調べを行って、キャラクターをより高い水準に引き上げたんだ」ウィテカーは役作りにおいて、自らが演じるティックをビリーに影響を与える存在へと仕立てあげることを目標にしていた。より忍耐強いボクサーになること、怒りを抑えること、ディフェンススキルを意識すること、そして自分の責任を理解すること。そういったことをビリーに授ける存在だ。

レイチェル・マクアダムスにとって重要だったのは、ビリーの妻モーリーンをただ演じるだけでなく、実生活で彼女のような立場にある妻の目線からボクシングを理解して取り組むことだった。クレイボンはこう語る。「レイチェルは、ボクサーの経験を本当に感じて理解することを望んだ。彼女の夫がリングで戦っているとき、彼はいったいどんな経験をしているのか、その理解を得ようとした。彼女は、ボクサーの妻であることのリアルな感覚を知ろうとしたんだ」フークアはマクアダムスの役作りについてこう付け加える。「彼女が『あなたはパンチをもらいすぎているわ』と口にするとき、彼女は本当にその感覚を理解しているんだ。なぜなら彼女はずっとそばで見ていたからだよ」

フークアにはもう一つ、キャスティングで重要な決断があった。ビリーとモーリーンの早熟で愛情深く賢い娘レイラの配役を決めることだ。ギレンホールは、フークアと共にニューヨークでのオーディションに参加し、そこに集まった子どもたちに向けて、監督の指示通りビリーのキャラクターに扮して自己紹介した。2人は12歳の舞台・映画女優ウーナ・ローレンスに会うと、すぐに彼女こそが彼らが求めるレイラだと悟った。彼女は一揃いの人形をそこに並べ、尻込みすることなくそれらをギレンホールにイギリス訛りで説明してみせた。「ジェイクと向き合って、彼を怖がることのない子どもが必要だった。そして彼女は見事に彼と渡り合ってみせた」

またフークアは友人で、アーティスト兼実業家のカーティス・‘50セント’・ジャクソンがボクシングのプロモーションを手掛けており、フロイド・メイウェザーなどのアスリートと交流を持つようになると、『サウスポー』の企画にフィットするかもしれないと考えた。「マネージャーのジョーダンは、曖昧なグレーな感じのする男にする必要があった。彼は悪い男ではなく、ビジネスマンなんだ。それが50セントの役さ」とフークアは語っている。

徹底したリアリティを追及した撮影現場

本作の撮影は、2014年6月中旬から8月中旬まで合計約40日間かけて行われた。撮影は主にペンシルバニア州のピッツバーグとインディアナで行われ、後にニューヨーク・シティとラスべガスのシーザーズ・パレスで短期間の撮影が行われた。俳優たちが磨き上げた数々のスキルを引き立たせるべく、フークアと撮影監督のマウロ・フィオーレは、長きに渡りHBOでボクシング試合の撮影技師を務めてきたスタッフに試合シーンの撮影を依頼することに決めた。さらに試合シーンにリアルな雰囲気を添えるのは、HBOの伝説的ボクシング解説者ジム・ランプリーとロイ・ジョーンズ・ジュニア、さらにベテランのボクシング・レフェリー、トニー・ウィークスだ。

ペンシルバニア州立大学インディアナ大学の敷地内にあるコヴァルチック・センターが、撮影の最初の2週間のあいだシーザーズ・パレスおよびマディソン・スクエア・ガーデンとして飾り付けられ、映画の3つのメイン試合の撮影が行われた。こうした顔触れのチームが集まり、クレイボンがボクサーを演じる俳優たちに入念なトレーニングを施し、それぞれの試合の振り付けを綿密に組み立てる一方で、フークアにとって最も重要なゴールは、“オーセンティシティ(真実性)"だった。「僕はジェイクに言った。『カメラはあらゆる瞬間を捉える。だから君が疲れていたり、気絶したり、嘔吐したりすれば、それは映画に映ることになる』。また僕は撮影監督のマウロに言った。『照明の補正はなしだ。実際のボクシングでは、マディソン・スクエア・ガーデンや、ラスべガスの試合の照明を補正したりしないだろう』とね」

2人合わせて40年近くのHBOでのボクシング撮影の経験を有し、過去に『ザ・ファイター』や『リベンジ・マッチ』の撮影も手掛けたトッド・パラディーノとリック・サイファーの専門的な助言はただのカメラワークのみに留まらなかった。この映画のボクシングシーンは本物の試合と同じように3分間のラウンドで演じられ、テレビ番組で行うのと全く同じように撮影された。4台ないしは5台のカメラを設置し、そのいくつかはHBOの試合のテレビ中継のスタイルを再現する形で置かれ、別のカメラは監督のフークアと撮影監督のフィオーレの特徴的なビジョンを実現し、タイトなショットを撮影するために置かれた。さらに、彼らを含めて様々な人々がディテールに関して予想を超える助言をフークアに与えた。ラウンドガールをどのように配置するか、ボクサーは入場の際に花道をどのように歩いてくるか、審判はどこに座るか、警備員はどこに立つか、そういった事柄について。